小説家と脚本家は何が違うのか 『晩酌の流儀4』に見る、制約と向き合う物語づくり 脚本家・中川千英子さんに聞く Vol.1
石川県にゆかりのある方へのインタビュー。登場するのは脚本家の中川千英子さん。数々の脚本を書き上げて、NHK朝のテレビ小説ノベライズ本も複数担当している。最近ではウェブ漫画の原作で人気を博する。2025年後半に『晩酌の流儀4』の脚本を務めた。これを皮切りに、脚本作りの話を掘り下げていく。(聞き手/石川アルムナイ編集長 星良孝)
──2025年後半、『晩酌の流儀4』の脚本を務めた。
中川さん: 「おいしいものを食べる系ドラマ」は、『孤独のグルメ』をはじめ、人気ジャンルの一つになっていますけど、『晩酌の流儀』はタイトルの通り「晩酌」に特化しています。
──晩酌をどのように中心に。
中川さん: 「家での晩酌をいかに楽しむか、その日の過ごし方次第で晩酌の味はゼロにも百にもなる」。そうした感覚を主人公の伊澤美幸が体現しています。ドラマは主に前半がコメディ、後半がモノローグ付きの晩酌シーンからなっています。コメディは、金曜の夜らしく気楽に見てもらえるようにしつつ、モノローグ部分では、見ているとお酒が飲みたくなる、料理も作ってみたくなる。そのようなコンセプトに基づいた物語と受け止めています。
──おいしいものを食べるジャンルは支持されている。
中川さん: 私は「食べるものって強いな」と思っています。疲れて帰ってきた人が、深夜にぼーっと見るだけでも、どこかで救われる感じがあります。『晩酌の流儀』は特に、晩酌に辿り着くまでの道のりがあり、最後の一杯がまさしくご褒美となっています。見ている側も、その快感を一緒に味わえる。そうした特徴があるからこそコアなファンにつながっているのかなと思います。
──今シーズンから参加した。
中川さん: 後からチームに入った側なので、既に登場人物のキャラクターなど決まっていることがたくさんあります。(主人公たちが勤める)ホップハウジングのメンバーは「いつもの4人」が魅力なので、急に性格を変えることはあり得ません。視聴者も「いつもの4人が見たい」から見ているわけで、その枠の中でどうするか工夫が必要になります。
──枠の中で工夫する。
中川さん: 枠を制約と捉えるのではなく、「枠があるからこそ面白くできる」と思えると楽しくなります。俳優さんの個性を生かせたら一番いいですし、「どうしたらもっと面白くなるか」と考えること自体、私にはご褒美でもあります。
──一定の枠の中で書くのは小説とは異なる。
中川さん: 「小説家と何が違う?」という問いですね。これは一番よく聞かれるし、説明も難しいです。でも、ここが伝わると、脚本家の仕事の特性や勘所が分かってもらいやすくなると思っています。一言で言うと難しいんですけど、小説の場合、私が原稿を書き終えたら、原則としてそれで作品として完成します。編集や流通の工程はありますけど「物語を作る」という意味では、原稿が決定稿になった時点で完結します。でもドラマや映画など、映像作品の脚本は違います。脚本は、どんなに練って練って面白くしても、できた段階ではまだ完成ではないということです。演技と演出をしてもらわない限り、作品は完成に至らない。そんな「宿命」を背負っているのが脚本家だと思っています。
──脚本は作品を形にする工程の途中段階といえる。
中川さん: 小説に比べて、「事情」や「都合」が圧倒的に多い。そこも大きく違うところです。一番分かりやすいのは予算です。ドラマで使えるお金には限度があります。「大ホールに観客が1万人集まり、主人公が大演説をする」みたいなシーンを書いたら、映像化にはエキストラ費用がかかる。そういう制約が現実としてあります。一方で小説なら、主人公が自室から一歩も出ない話を書こうが、1万人の聴衆の前にいる場面を書こうが、文字として書く限りコストは変わりません。小説のほうが自由度は高いと思います。
──映像として実現できるかを考える必要がある。
中川さん: 尺の問題も大きいです。30分ドラマの『晩酌の流儀』を考えると、実際はCMも入りますし、料理をして、食べて、モノローグも入る。そう考えると、物語を描ける時間は限られていきます。それに出演者のスケジュールも絡みます。どうしてもこの役はこの人に出てほしいと思ってお願いしてOKをもらっても「その分のスケジュールは確保できません。出演シーンをもう少し減らせたら」と言われることがある。そこも脚本側が対応する。そういうことが日常的に起きます。
──制約が多いほど、書き手の自由は削られる?
中川さん: 削られる、というより「形を変える」必要が出てくる。どんなに頑張ったって、ないものはない。スケジュールがないなら、ない。真夏のシーンを撮りたい、雪が降っているシーンを撮りたい、そう思っても「今の撮影日程だと無理です」と言われたら、それはもう無理です。じゃあ雪を降らせたい気持ちはどうするのか。降らない現実の中で、面白さを損なわない別の手を考える。そこがすごく重要だと思っています。
──脚本家ならではのスキルが求められる。
中川さん: 私が脚本家という仕事で有利に働くと感じているのは柔軟性です。ストーリー作りのノウハウや基本は大事です。これは脚本を書く人でも小説を書く人でも、ある程度は学んで身につけられる部分だと思います。基本の技術を土台にしつつ、現場の事情に合わせて形を変えられること。そこが、この仕事ではとても大きいです。柔軟に合わせる部分と「これは自分のこだわりだから揺るがない」という芯を持つこと。その両方が必要になります。行ったり来たりしながら、作品を完成に近づけていく。それが脚本の面白さでもあると思っています。

中川千英子(なかがわ・ちえこ)さん
脚本家。石川県金沢市出身。金沢泉丘高等学校出身。清泉女子大学文学部卒。芦沢俊郎シナリオ研究所で作劇を学ぶ。アニメシナリオコンテスト「第2回 天下一文闘会」最終選考選出。石川県人会広報誌『石川縣人』編集委員。主な脚本作品に映画『きょうのキラ君』『10万分の1』、テレビドラマ『ホテルコンシェルジュ』など。連続テレビ小説『マッサン』『べっぴんさん』『エール』『らんまん』のノベライズも手がける。日本シナリオ作家協会シナリオ講座(第76期)講師など、後進の育成にも携わる。